地獄谷野猿公苑は野生のニホンザルの生態を
間近で観察できる場として多くの方に愛されています。
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故郷である山ノ内町とともに生きて。
生まれも育ちも山ノ内町。地獄谷野猿公苑が開苑した昭和39(1964)年は、実は私の生まれ年でもあります。今日まで同じ年月を重ねてきたかと思うと、不思議な縁を感じます。
幼い頃は親に連れられて、小学校では遠足で友達と、野猿公苑には何度も足を運びました。山ノ内町自体が自然豊かな場所ですので、野生のサルはそれほど珍しいわけでもなかったのですが、やはり群れの様子や温泉に入るサルを見ることができるのは貴重でしたね。就職のタイミングでたまたま募集があり、故郷を離れたくなかったこともあって野猿公苑にお世話になることを決めました。
入苑当時はバブルの頃で、観光客も徐々に増え始めていました。といっても、まだ電気もなく、朝一番の仕事は発電機を回すこと。ほぼ自給自足で苑内の整備から何から、すべて自分たちでやっていました。地獄谷野猿公苑は上信越高原国立公園の志賀高原を源とする横湯川の渓谷に位置し、標高は850mほどあります。雪の量も多く、当時はほとんど手作業で汗をかきながら除雪していました。
そんな雪深い地獄谷野猿公苑のニホンザルは、世界で唯一温泉に入るサルとして有名です。Snow Monkeyとして「LIFE」に紹介されたのは、昭和45(1970)年のこと。もともとは、地獄谷温泉に江戸時代から建つ後楽館の露天風呂に、野生のサルが浸かることを覚えたのが始まりです。苑内の温泉にも浸かるようになりましたが、観察しているとすべてのサルが浸かるわけではないようで、200頭ほどの群れのうち約4分の1のサルが温泉に浸かっています。サルにも好みがあるようです。
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野生のニホンザルの貴重な観察の場として。
野生のニホンザルの生態観察と保護を目的として開苑した地獄谷野猿公苑は、今も多くの研究者が訪れ、サルの生態観察が行われています。苑内で餌付け用に用意しているのは、大麦や大豆、りんごなど。餌づけではありますが、餌やりショーではありません。餌を与える時間も状況によって変え、告知もしていません。苑を訪れるサルたちはあくまでも野生のニホンザルであり、群れは移動しながら春は木の芽、秋は木の実など旬の味を求め、体が必要とする栄養を本能的に欲して動いています。季節や日によって、苑に来てもサルがいないのは野生である証。そんな野生の二ホンザルを間近で観察できることこそ、野猿公苑の醍醐味なのです。
私たちも、群れに対して過剰な対応や思い入れはしないようにしています。あくまでも客観的、総合的に観察するからこそ、自然の理が見えてくることもあるからです。例えば近年は温暖化が地球規模の課題となっていますが、気温の上昇は苑内でも実感しています。さらに苑の周辺に生息していなかったイノシシやシカを、ここ数年非常によく見かけるようになりました。これは降雪量が減り、冬が短くなったことが影響していると思われます。ニホンザルたちも動ける期間が長くなったことで、交尾や出産の期間が以前より長くなってきています。動植物たちからのシグナルを見逃さずに観察することで、今後、私たちが何をすべきかを考え、行動に移していかなければなりません。
近年はインターネットやSNSの普及により、個人発信の情報が全世界に広がる時代となりました。昨年の野猿公苑の動員数は31万人で、うち6割が海外からのお客様です。今後は温泉に入るサルだけでなく、自然観察に注力したツアーを企画するなど、新しいことにも挑戦していきたいと思っています。


